背景:スナップショットはバックアップではない
中規模企業でVMware ESXiインフラを約6ヶ月運用して、文字通り「高い」授業料を払って学んだことがある。スナップショットは設定変更時に素早くロールバックするのに役立つが、同じデータストア上に存在する。RAIDコントローラーが故障すれば、スナップショットもVMもすべて消えてしまい、手の打ちようがない。
企業環境での最低限の基準は3-2-1戦略だ:データの3つのコピーを2種類の異なるメディアに保存し、そのうち1つはオフサイトに置く。Synology NASとActive Backup for Business(ABB)の組み合わせは、ソフトウェアが完全無料という理由で多くのsysadminに選ばれている。NASのハードウェアに一度投資すれば、あとは使い続けられる。
以前、個人ラボをVMwareからProxmoxに移行したことがあり、Proxmoxのビルトインバックアップが便利だと感じた。しかし本番稼働中のESXi環境では、ハイパーバイザーの切り替えが必ずしも現実的とは言えない。ABBはVMware APIと直接連携し、CBT(Changed Block Tracking)を使って変更されたブロックだけをコピーする。初回フルバックアップ後の増分バックアップは、数時間ではなく数分で完了する。
事前要件
- Synology NAS:DS923+、DS1522+またはABBに対応した同等モデル(互換性リストを確認)
- DSM:バージョン7.0以降
- VMware ESXi:6.5、6.7、7.0または8.0
- ESXiとNASが同一LAN内にあるか、IPで通信可能であること(バックアップトラフィック専用のVLANの使用を推奨)
- ESXiアカウントに
All privileges権限、または最低限Virtual machine → Configuration → Change SettingsとvStorage API for Data Protection権限があること
SynologyへのActive Backup for Businessのインストール
ステップ1:Package Centerからパッケージをインストール
DSMにログインし、Package CenterからActive Backup for Businessを検索してインストールする。ABBは無料だが、Synology Accountを通じてライセンスを有効化する必要がある。こちらも無料で、登録には数分しかかからない。
ABBを初めて起動すると、有効化のためにSynology Accountのログインページに誘導される。このステップが完了すれば、すぐに使い始められる。
ステップ2:バックアップ保存用の共有フォルダーを作成
Control Panel → Shared Folder → Createからvm-backupという名前のフォルダーを作成する。Data Checksumを必ず有効にしておくこと。無効のままだと、サイレントなデータ破損がリストアが必要になるまで検出されないという事態になりかねない。NASに複数のボリュームがある場合は、最大のボリュームにこのフォルダーを作成すること。
VMware ESXiとの接続設定
バックアップ専用のESXiユーザーを作成する
バックアップにrootを使うのは悪い習慣だ。必要な権限だけを持つ専用ユーザーを作成する。ESXiにSSH接続するか、vSphere Clientを使う:
# ESXiホストにSSH接続
esxcli system account add -i backup-user -p 'StrongPass@2024' -c 'StrongPass@2024'
esxcli system permission set -i backup-user -r Admin
スタンドアロンESXiではなくvSphere/vCenterを使用している場合は、vCenterでユーザーを作成し、Virtual Machine Power UserロールとvStorage API権限を割り当てる。
VM上でChanged Block Tracking(CBT)を有効にする
CBTにより、バックアップツールは変更されたブロックだけをコピーし、変更のない部分をスキップする。1日に15〜20GBしか書き込まない500GBのVMなら、増分バックアップは数時間ではなく10〜15分で完了する。ABBはバックアップジョブにVMを追加する際にCBTを自動的に有効化するが、VMがシャットダウンされているか、VMware Toolsが実行中である必要がある。
ESXiホストをABBに追加する
Active Backup for Businessを開き、VMwareタブ → Add VMware vSphereを選択:
- Server:ESXiホストのIPまたはホスト名(例:
192.168.10.10) - Port:443(デフォルト)
- Username:
backup-user - Password:作成したパスワード
Test Connectionをクリックして、成功するとホスト情報とVMの一覧が表示される。初回接続時、ESXiのSSL証明書は通常自己署名であるため、ABBが信頼するかどうかを確認してくる。Trustを選択すること。
バックアップタスクの作成と詳細設定
新しいバックアップジョブを作成する
ESXiホストを追加したら、Backup Task → Createへ進む:
- Task name:わかりやすい名前を付ける(例:
ESXi-Production-Daily) - Backup source:バックアップするVMを選択。個別のVMまたはホスト全体を選択可能
- Destination:作成した共有フォルダー
vm-backupを選択 - Backup mode:Incrementalを選択(初回フルバックアップ後は変更されたブロックのみバックアップ)
バックアップスケジュールの設定
小〜中規模の本番環境で私が使っているスケジュール:
- フルバックアップ:日曜日 午前2:00
- 増分バックアップ:月曜〜土曜 午前3:00
ABBの画面でSchedule → Customを選択し、必要に応じて設定する。オフピーク時間帯を選ぶこと。CBTを使ったバックアップは比較的軽量だが、ピーク時に実行するとI/Oへの負荷は無視できない。
リテンションポリシーの設定
この部分を見落とす人が多く、数ヶ月後にNASがいっぱいになって慌てることになる。基本的な設定:
- Keep all versions for:7日間(1週間分のリストアポイントをすべて保持)
- Keep daily versions for:30日間
- Keep weekly versions for:3ヶ月
ABBは重複排除を使用しており、リストアポイント間で同じブロックは1回しか保存されない。実際のケースでは、合計ディスク容量2TBの5台のVMで、3ヶ月後もNASの使用量は約800GBに抑えられた。悪くない数字だ。
高度なオプション:バックアップ時のVM静止化
VMでSQL Server、Exchangeなどのデータベースを実行している場合は、Enable application-aware backupを有効にする。この機能はVSS(Volume Shadow Copy Service)を呼び出してスナップショット前にトランザクションをディスクにフラッシュする。不完全な状態でデータベースをバックアップすることを防ぎ、リストア後に起動できないという事態を避けられる。
前提条件:VMware ToolsがゲストVM上にインストールされ、実行中であること。
動作確認とモニタリング
初回バックアップのテスト実行
タスクを作成したら、Back Up Nowをクリックして初回フルバックアップを実行する。初回はデータ量によって時間がかかる。1TBであればストレージとネットワークの速度によって通常2〜4時間かかる。Logタブで進捗を確認できる:
# SSH経由でNASのログを確認(デバッグが必要な場合)
cat /var/log/synology/activebackup/activebackup.log | grep -i "error\|warn" | tail -50
リストアテストでバックアップを検証する
リストアテストをしていないバックアップは、バックアップがないも同然だ。ABBはInstant Restoreをサポートしており、ESXiにファイルをコピーすることなく、NASから直接VMを起動できる。テスト手順:
- Restore → VMwareに進む
- テストするVMとリストアポイントを選択
- Instant Restore to VMwareを選択
- NASからVMが起動したら、データとサービスが正常か確認
- 確認が完了したら、そのインスタントリストアVMをシャットダウンする。NASから本番稼働させないこと
毎月1回、1〜2台のVMをランダムに選んでリストアテストをする習慣をつけている。手間に聞こえるかもしれないが、バックアップが「動いているだけ」でなく「必要な時にリストアできる」ことを確認する唯一の方法だ。
メール通知の設定
DSM Control Panel → Notification → EmailでSMTPを設定する。次にABBのSettings → Notificationで、バックアップ失敗時のアラートを有効にする。週次サマリーを送信するHealth Reportも有効にしておくと、毎日ダッシュボードを確認する手間が省ける。
日次ダッシュボードモニタリング
ABBには十分な概要ダッシュボードがある。毎日確認すべき4つの指標:
- Last backup status:
Successfulであること。WarningやFailedではないこと - Protected/Unprotected VMs:見落としているVMがないか確認
- Storage usage:増加ペースを把握して、ディスク追加のタイミングを事前に計画する
- Transfer speed:突然の速度低下はネットワーク障害やNASの高負荷のサインであることが多い
3-2-1戦略の完成
ABBでESXiからNASへのVMバックアップにより、3つの要件のうち2つはカバーできる:ESXi上の元データとNAS上のバックアップ、つまり2つのコピーと2種類のメディアだ。残るのはオフサイトコピーだ。
SynologyにはHyper Backupがあり、クラウドや別拠点のNASへデータを同期できる。VMバックアップの場合、vm-backupフォルダーをBackblaze B2に週次で同期するのが現実的な選択だ。500GBで月約$3のコストは、Amazon S3(同容量で月約$12)と比べてはるかに安い。
ESXi + Synology ABB + Hyper Backupのクラウド連携という構成で、VeeamやZertoのような数千ドルのライセンスなしに完全なデータ保護システムが構築できる。NASのハードウェアは一度きりのコスト、ソフトウェアは無料、そしてデータは自分の手元に置いておける。
